脱動力の旅あれこれ⑨ ~出会い~その5
(老夫婦に教えてもらった方角に自転車を走らせていたら、低速で追い抜いた車から手を振る人がいた)
私は見損なったが、息子が、「さっきのおばさんだ。」と言う。私は手をあげて応じた。助手席の婦人が人差し指でしきりにあっち、あっちという動きをしている。左に曲がれということらしい。国道1号線から斜め左方に続いている狭い道路に私たちは入っていった。どの車もスモールランプを点灯している。私は北斗にライトを点けるように指示を出した。一時停止して夜間走行の準備をしていると、1台の車がスーッと寄ってきて止まった。道を教えてくれた夫婦である。車の後ろについてこいと言う。駅までの案内をしてくれるというのか。車は、自転車の速度に合わせるように、ゆっくりと走る。狭い道なので後続の車も当然ゆっくり走ることになる。申し訳ない気持ちになったが、我慢してもらうしかない。
やがて名鉄名古屋線の踏切を越えた。後続の車がつまってきたのを察してか、それともここまで案内すれば私たちが駅を見つけるのは容易だと思ってか、夫婦の乗った車はスピードを上げて遠ざかっていった。私たちは直進し、キョロキョロしていたら、クラクションが右方から聞こえてきた。そっちの方に目をやると、あの夫婦の車からだった。婦人が窓から手を出して手招きしている。直進ではなく、右折しなければならなかったのだ。私たちの迷いをバックミラー越しに鋭く察してくれたのだろう。夫婦の心遣いがなんとありがたいことか。車についてしばらく走らせると、知立駅に至った。車が止まり、中から婦人が降りてきた。私は感謝の言葉を述べた。夫婦の自宅はまったく違う方向にあるのだそうだが、こうしてわざわざ案内してくれたのだった。どうせ暇だから構わないよ、とこともなげに言う。私たちはこの近辺のホテルに泊まるつもりだと話し、お礼にお茶の入ったパックを渡した。
駅前の繁華街はネオンがあふれていた。私達は「ホテル」の看板を探した。さして大きいとはいえない街であるが、駅周辺には必ずビジネスホテルがあるはずだ。踏切を渡り、頭をあちこちに動かしていると、先ほどの婦人が小走りに寄ってきて、右の路地に入っていった。後ろを追う。ホテルを教えてくれたのである。なんと世話好きで親切な人たちなんだろうか。本当の親切に出会った気がした。ところが、ホテルは休業だった。灯りがついていない。婦人は、交番で聞いてごらん、とアドバイスをしてくれた。改めて深くお礼を言って別れた。
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