春は名のみの 風の寒さや 4
今年の安曇野旅行には3つの目的があった。一つは奈良井宿で上原さんにお会いすること、二つ目は、春来たりと言えども、依然雪に覆われた雄大な北アルプスを眺望すること、三つ目は、木彫を本職としながらも、シンガーソングライターとして活躍している手仕事屋きち兵衛さんにお会いすることだった。彼の曲は詩情豊かで、深みがある。クリスタルな声で歌われる歌詞は心に染入ってくる。車で遠出する時にはいつも彼のCDを持っていくほど気に入っている。陶芸教室でも時々彼の曲を流している。

浅間温泉にある玉の湯というホテルでは、手仕事屋さんのミニライブが月に一度行なわれている。宿泊客は夕食後、小さな板の間の部屋に集い、間近で彼の歌と話を聞く。1時間ほどのコンサートが終わると、各自飲み物持参で再集合し、手仕事屋さんを囲んでの雑談が始まる。聴衆のすべてが集うわけではないが、3分の2ほどがテーブルを囲んだ。女将も顔を出して挨拶をし、最後まで付き合った。
雑談会参加者はこのホテルに2度3度と来ている方たちで、手仕事屋さんの歌をこよなく愛す人たちだった。彼女たちのことを手仕事屋さんはこう紹介した。
「私のファンクラブ・・・、ではなく保存会の人たちです。」
“手仕事屋きち兵衛保存会”は各地にあるらしい。私の隣に座っていた大町市から来ていた女性は、そこで「銀の会」という保存会を作って、年に何回か手仕事屋さんの小さなコンサートを開催していると話していた。豊橋市にもその会があって、5月18日にはちょっとした大きなホールでコンサートを企画している。和紙で出来た洒落たチケットは会の人たちが手作りしたと聞く。
一時、メディアの表舞台に登場した彼だが、目立つことを嫌い、地元で本業の木を彫る仕事をしながら、時に求めに応じてコンサートを行っている。そうした控えめな彼の歌を途絶えさせてはならないという思いが、「保存会」という名称のファンを作ったのだろう。
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